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内  容

漢字は、かつての生命力を、再び呼びもどし、そうして、民族の文化と精神を、強固に支えるものとして生きつづけるにちがいない、そのことを信ずるゆえに、この本は書かれました。

本書では、「白川文字学」の継承者山本史也氏が、漢字の肥沃な精神世界を膨大な歴史資料から解き明かします。

  • 七十四点の漢字を取り上げ、字源について解説を加えました。
  • イラスト・五十六点、書字・七十四点にて分かりやすく解説しています。
  • 書物、人物には巻末に注を付けました。
  • 難解な話につきましては下部に語句注をつけました。
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第二章 「神・かみ」と「人・ひと」から抜粋

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はじめに (本文より)

古く、日本に、和語(やまとことば)は行われていたが、しかし、日本は、ついに文字を生むことはなかった。

古代文字は、ことごとく王権の要求に応じてつくられている。中国に古代文字としての甲骨文字が出現するのは、いまより、おおむね三五〇〇年まえ。日本に王権が成立するのは、それより二〇〇〇年のちのこと。隔たること七世紀を超える。漢字の流入は、すでに七世紀以前にはじまる。日本にとって、あらかじめ文字は、不要であったといってよい。

和語は、漢字を用いることによって、はじめて、その表記を可能とした。もとより、その借用が、容易のことであったとは思えない。『古事記』の太安万侶の序文が語るように、外国語としての漢字を用いて、和語の意を表現することは、困難を極めることであった。一語の和語を、一字の漢字に対応させる、そのきびしい翻訳作業が、もっぱら日本人の手によって行われたとは、およそ考えがたいことである。漢字を民族の言語とする朝鮮系渡来者の力に負うことは、乏しくなかったものと思われる。しかも、繊細な情感をもつ和語は、あれほど重厚な漢字に委ねうるものではない。

和語「あがむ」は、『日本書紀』において、「加崇」「重」「奉」の語に記される。「おこたる」は、「怠」「倦」の語に、やがて、「懈怠」の二字を用いて示すに至る。言表しがたい情感は、一字に託しえない。「あたらし」を、『日本書紀』は、「悔惜」とし、「いぶせし」を、『万葉集』は、「鬱悒」と記す。その多様な表記法は、当時の、和語を漢字に置換するときに生ずる苦渋の迹を反映する。しかし、そのことは、かならずしも和語の劣等性を意味しない。日本は、むしろ和語を漢字の文脈のうちに巧みに融けこませる。その和語と漢字との融合が、日本文化の肥沃な土壌をなし、そののちのゆたかな展開をうながす。そのとき、漢字は、すでに国字として機能する。私たちの言語は、和語と漢字の結晶体としてある。漢字は、私たちにとって対立するものではない。漢字は、包容されながら、日本文化を育成してきた。

 かつてアジアは一つではなかったし、いまも一つではない。しかし、漢字のみが、そのアジアをつなぐ、唯一の生命線であった。もっとも、朝鮮は、わずかに学術書に、漢字をとどめて、その活用を全面的に放棄してしまった。東南アジアの諸民族もまた、漢字文化圏のうちに、その古典的世界を形成してきた。もっとも、いま、そこに漢字は、はたらかない。その字音のみを、いくばくかは、残しながら。

 いま、漢字を、その文化を支え、培う原動力として用いる領域は、中国、台湾、そして日本にすぎない。むろん、そのそれぞれのたどってきた歴史、そして、その社会体制において、同一であるものはない。しかし、そこには、無形ではあれ、たしかに深く通底するものがあると、確信する。その確信のもとに、私は、漢字を通して、中国と日本の古層を追求しようと考えてきた。その古層に湛えられる、深い精神に参入してゆくこと、それが、私の素志であった。本書も、また、その素志を貫く過程のうちに、生まれる。


著  者

山本 史也

1950年、高知県土佐清水市生まれ。大阪府の公立高校国語科教諭であり、文字文化研究所副所長。白川静の最後の直弟子として「白川文字学」の面白さ、奥深さを広く流布するために活躍。講演活動、テレビ出演などもこなす。
著書に『神さまがくれた漢字たち』(理論社)、『続・神さまがくれた漢字たちー古代の音』(理論社)、『漢字のしくみ』(ナツメ社)、『先生のための漢文Q&A100』(右文書院)などがある。

目  次

はじめに
第一章 「身」と「心」
第二章 「神」と「人」
第三章 「音」と「姿」
第四章 「善」と「悪」
第五章 「欲」と「盗」
第六章 「法」と「道」
第七章 「哀」と「笑」
第八章 「光」と「風」
第九章 「武」と「和」
第十章 「君」と「民」
第十一章 「狂」と「夢」
第十二章 「生」と「死」

字の記憶

四六判(128×188ミリ)
/ 176頁

定価(本体1,800+税)

ISBN 978-4-8391-
0801-4 C0081

2011年3月20日発行

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