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第1回 周りが支えてくれた

鹿児島市に精神障がい者とともに、生きやすい社会作りを目指す出版社「ラグーナ出版」がある。同社は障害者自立支援法に基づき、精神障がい者の暮らしや働く夢を支える自立訓練事業、就労機会を提供する就労継続支援A型(雇用型)事業を行い、体験者が寄せた文芸作品や病気への対処法を掲載した書籍などを発行。社会で暮らす希望を示している。その活動の日々を、川畑善博社長につづってもらう。

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昨年の東日本大震災以後、私たちは心のどこかで、モノや国は頼りにならないと感じ、ふっと「つながり」の大切さに気づき、あらためてお金より大切なものがあるのではないかと考え始めたように思います。

ラグーナ出版が昨年4月にスタートさせた、精神障がい者に対する自立訓練事業には、「つながり」を求めて多くの方が来所されます。この事業は、4年前に始めた就労継続支援A型事業の求人をすると、希望者が殺到して大半の人を断る状況が続いたことに心を痛めてつくりました。「働く場所を提供できなくても働く夢を支えたい」「最初の一歩を踏み出す場所をつくりたい」―そういう思いで設立したのです。

「どこに相談すればよいか分からずに来ました」。そう言って、ひきこもりのわが子を、お母さんが面接に連れてくるケースが多数あります。共通しているのは、本人は無口で、母親は心配そう。「つながりをどこに求めたらいいか分からない」ということです。本人に将来の夢や目標を尋ねても「分からない」と答えます。未来とのつながりを失った現在に苦しんでいるのです。

私も大学進学で親元を離れて東京で暮らしだした18歳のとき、半年間のアルバイトでためたお金で、その後の半年間を一人、アパートにひきこもった経験があります。思春期の葛藤といえばそれまでですが、親との意見の対立、人間関係の難しさ、愛や正しさとは何かが分からなくなったからでした。

昼すぎに起きて本を読み、朝方眠りにつく生活。悟りを開こうと大真面目に考え、外出は弁当店と書店だけ。挿絵銭湯は2カ月に1回。楽しみはラジオを聞くことで、ある番組を担当する芸能人と「いつかビックになって結婚する」と信じ込み、ニーチェの言う「超人」になった気分で復学しました。

しかし、アルバイトでは筋力が低下していて重いものが持てない状態。学内では人と全く話ができず、話をどう切り出していいかさえ分からない。ラグーナ出版の面接の最中に、あのころのことを思い出し、ふと「親と一緒に暮らしていたら、心の相談窓口に連れられていったのでは」と考えました。

幸いにも私には、上京したときにお世話になった先輩がおり、彼が「外へ」連れ出してくれました。彼は芸能人と結婚するという私の夢を否定することなく、「いい夢だね。善博ならできるよ」と声を掛けてくれました。夢は実現しなかったけれど、夢が未来とのつながりをつくり、私に生きる情熱を与えてくれました。人が社会とのつながりをつくって私を「治して」くれたのです。このときの経験が、私の福祉活動の原点になっています。

人は夢とつながりの中で回復していく―。このシリーズでは、このテーマについて書いていこうと思います。

鹿児島市、ラグーナ出版社長 川畑善博


夢とつながりのなかでは本でも読めます