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世界の精神医療事情  ( Mental health in the world )

日本は戦争のない物質的には豊かな国となりました。

しかし複雑な社会の中で、年間3万人を超える方が自殺で亡くなり、いまだ33万人の方が精神病院に入院しており、大人だけではなくこどもたちまで生きる希望を見失いがちな現状です。

自らを見失わないためには、外の世界を知ることが大切だと思います。

健康の形、心の形、生きる形、世界のさまざまな形を、ともに探していきたいと思います。

株式会社 ラグーナ出版
代表取締役 精神科医 森越 まや

ブータンの精神医療

ブータンのこと

ブータンは中国とインドの間、ヒマラヤの山々に抱かれた天空近き国である。人口63万人、九州ほどの大きさのこの国の歴史は江戸時代初期までさかのぼり、1900年初頭には現代の王国の形となった。18世紀中ごろからは鎖国政策をとり、世界第一位の人口を抱える中国と第2位のインドに囲まれながら、現在に至るまで他国の侵略を許していない。

チベット仏教の流れをくむ敬虔な仏教国であり、伝統文化に満ちた自給自足の生活は、桃源郷とも言われている。1974年からゆっくりと開国し、自らの発展を測るその国策は「GNH:国民総幸福量」の概念である。ブータンの名を世界に高めたこの「GNH」は、父王ジグメ・ドルジ・ワンチュク3世の早世により王位についたジグメ・シグゲ・ワンチュク4世の、わずか17歳の時のことばである。

世界銀行副総裁を務め世界で活躍された西水美恵子氏は、歴代のブータン国王を「世に稀なリーダー」とその先見性を讃え、ブータンを「世界で一番学ぶことが大きかった国」と書いている。2006年には王位はジグメ・ケサメ・ナムギャル・ワンチュク5世に譲位され、2008年7月憲法発布。ブータンは立憲君主制に移行し、ゆっくりと確実に自らの道を進んでいる。

ブータンの精神医療

私は2010年ブータンを旅した。大きな期待を抱いて旅立ったが、その予想をはるかに上回る素晴らしさであった。凜として静謐、風が吹き渡り虹が煌めき、夢のように、現実が生き生きと迫り、見えるものも見えないものも暖かな温もりでつながる国であった。

旅の始まりに首都ティンプーの 国立病院Jigme Dorji Wangchuk National Referral Hospitalの見学をお願いしていた。ここには国で唯一の精神科病床が12床あり、唯一の精神科医師Dr Chencho Dorji が働いておられる。旅の前に、Drは大変忙しいのでお目にかかることはできないだろうと言われていた。しかし、幸運にもお目にかかって病棟も見せていただき、お話を伺うことができた。

Dr Chencho Dorjiは、ブータンの豊かな自然と伝統文化の中、自給自足の生活で育ち、やがて国を離れてスリランカ、オーストラリア、アメリカと諸外国で西欧医学を修めて帰国された。西洋精神医学でいう「精神病」の概念のない母国で、治療可能な精神障害を防ぎ、薬物療法など現代精神医学と、祈祷や占星術、薬草など地域に根差した伝統精神医学の双方を取り入れた独自のメンタルヘルスシステムを構築された。自然とともに生きる深い精神世界を現代社会に転生させる知恵である。地域中心の精神医療とは、伝統医学だけではなく家族や周囲の人とのつながり、自然とのつながり、引き継がれる文化とのつながりの中で回復していくということである。 Dr Chencho Dorji のお話を伺いながら、私は深く感銘した。

小社が刊行した単行本「風の歌を聴きながら」について、中井久夫先生が書評を書いてくださった。中井先生への深い尊敬の念から、折に触れ、私たちの活動をご報告させて頂いている。ブータンから帰って、拙い便りにこう綴った。「答えがブータンにあると思うのに、問いがわかりません」中井先生はそのお返事にこう書いてくださった。 「答えがブータンにあるのなら、問いはブータンの雲の中にあるでしょう」

ブータンの雲は地球を巡って日本の上にも流れるだろう。空を仰いで、問いの雲をさがす日々が始まった。

Dr Chencho Dorji のお仕事から、広く私たち日本人も、こころについて、幸福について考えさせられ学ぶことがたくさんある。論文を紹介しながら、共に学び思索を深めていきたいと願っている。

今後、翻訳を含めブータンの精神医療の紹介を続けていきたい。

参考資料:『国をつくるという仕事』(西水美恵子、英治出版、2009)

How Dr. Chencho Dorji is changing the World, Starting with Bhutan

The Bhutan kingdom is a small country with a big smile. Located in between China and India, it is found in the Himalayas. The population of this kingdom is under 700,000 but it is world-renowned for being one of the happiest nations in the world.

It is a Buddhist nation that still keeps its national heritage and traditions. The people are kind and lead a simple and happy life. In a recent survey of nations, it topped the list as having the highest, "Gross National Happiness".

Bhutan is on the road to modernization, but is trying to balance that within keeping to their heritage, culture and natural environment.

I had the pleasure of visiting Bhutan one summer and visited a hospital (Jigme Dorji Wangchuk National Referral Hospital). It was in the capital, Thimphu, and the psychiatric ward was run by a psychiatrist called, Dr. Chencho Dorji. He has set himself the task of introducing a mental healthcare program to the nation and is working tirelessly to achieve this goal.

His ideas and methods are really eye-opening and need to be considered in other countries, including Japan. I was so impressed that I felt an obligation to try and let other people know about his work.

On further pages, you will find an introduction to his work both in its original English form and its Japanese translation. I hope you will take the time to read through some of his material and use it to consider how we can help some of the members of our society who are more at risk of mental illnesses.

I am always trying to question whether we have found the best solution to the problems we face as a society, I feel that Dr. Chencho Dorji's work help us to ask ourselves better questions.

≪Dr.Chencho Dorjiによる、ブータンのメンタルヘルスに関する論文のご紹介≫

以下の論文のタイトルをクリックすると、pdfにて閲覧できます。 英語による論文ですが、順次和訳を進めております。

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